広島地方裁判所 昭和44年(行ク)10号 判決 1969年9月02日
申立人 小島丈児
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 奥津亘
同 高井昭美
同 樺嶋正法
被申立人 広島市長 山田節男
右訴訟代理人弁護士 中川鼎
同 宗政美三
主文
一、「大学を考える研究者の会」(代表者小島)の申請にかかる昭和四四年九月三日実施の広島市公会堂使用の集会について、被申立人の同年八月二二日付使用許可処分に対して、被申立人が同年八月二八日付をもってした取消処分の効力を停止する。
二、申立費用は、被申立人の負担とする。
理由
(申立ての趣旨および理由)
申立人らの申立ての趣旨および理由の要旨は別紙(一)、(二)記載のとおりである。
(相手方の意見)
相手方の意見の要旨は、別紙(三)意見書記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
一、疎明によれば、申立人小島は広島大学教授で、同脇坂、同森脇は同大学助教授であるが、昭和四三年一二月より申立人小島を世話人代表とし、他の申立人を世話人として、同大学の教官、大学院生計二〇数名をもって「大学を考える研究者の会」を結成したこと、申立人らは昭和四四年八月二二日申請団体を「大学を考える研究者の会」(代表者小島丈児」として、広島市公会堂条例(昭和三〇年三月九日条例第四号)第五条に基づき、被申立人に対し、同年九月三日午後五時から同九時まで、「広島大学問題、大学問題について報告および討論集会」を目的とする集会に同公会堂を使用したい旨の申請をしたこと、右申請に対し、同公会堂館長国近重身が被申立人名義をもって同公会堂の使用を許可し、即時、使用許可書を交付したこと、申立人らは同日同公会堂使用料金二四、〇〇〇円を納入したこと、その後、同月二八日にいたり、被申立人は広島市公会堂条例第九条第一項第三号を理由に右使用許可処分を取消す旨の処分をなしたこと、右処分に対し、申立人らは、広島地方裁判所に右取消処分の取消しを求める行政訴訟(同裁判所昭和四四年(行ウ)第二四号)を提起するとともに、右処分の執行停止を求める本件申立をなした事実が明らかである。
二、そこでまず行政事件訴訟法第二五条にいう回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるかどうか検討する。
申立人らが同公会堂を使用して、前示討論集会開催の趣旨および集会・表現の自由の本質にかんがみ、右使用許可の取消処分により、同公会堂が使用できなくなることは、他に代替場を求める時間的余裕もなく、結局右集会を昭和四四年九月三日の所定時刻に開くことができなくなり「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある」と認めるのを相当とする。
三、次に、本案について理由がないとみえるかどうかを検討する。
申立人の主張は、(一)前記使用許可取消処分は行政行為の撤回であり、本件の如く人民に利益を付与する行政行為の撤回には重大な制限があり、本件許可処分後何ら事情の変化もなく、また申立人らの責に帰すべき事由がないにもかかわらず使用許可取消処分がなされたものであり違法である。(二)本件の集会は広島市公会堂条例第六条のいかなる条項にも該当しない。従って右条項に該るとしてなした被申立人の使用許可取消処分は違法であるというにあり、被申立人の取消事由は別紙(三)意見書記載のとおりである。
本件疎明資料を綜合しても、被申立人のなした使用許可取消事由につき十分な疎明がされているとはいえず、その主張のように取消処分が自由裁量の範囲に属するとも首肯し難く、結局現段階において本件は「本案について理由がないとみえるとき」に該当しないと認めるのを相当とする。
四、さらに本件執行停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるかどうかを検討する。
被申立人は、本件集会が開催されるならば、申立人らには実力に訴えるような行為がないとしても、大学紛争の現況にかんがみ、反対勢力等からの妨害が予測され、公会堂において混乱を生じ破壊行為があるときは、復旧に多額の費用と日時を要することになると主張するが、本件疎明資料によるも、いまだ反対勢力等による妨害行為およびそれに伴う公会堂の器物損壊のおそれがあると認定するのは相当でなく、従って本件執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは言えない。
五、申立人森脇、同脇坂は、本件使用許可取消処分の当事者でなく、本案の原告適格を有するか否かに疑問はあるが、特に本件では言及しない。
六、以上の理由により、申立人小島の本件申立は理由があるからこれを認容することとし、申立費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 塩崎勤 井上郁夫)
<以下省略>